2015年9月26日

インヴェンション No.1 - BWV 772

第1番 ハ長調 C major
By http://www.mutopiaproject.org [Public domain], via Wikimedia Commons
Glenn Gould

Rosalyn Tureck

Simone Dinnerstein, Invention1, 13, 10

Marcin Dąbrowski

Paul Barton


Cory Hall

楽曲分析[1]

「Inventio 着想」はそれ以外の素材を加えないで、どう展開されるべきかの無類の好例である。つまりモティーフaが対位句bを生み、その二つがはじめの2小節のうちに、完結した主題にまとまるのである。それ以後がどのように労作されるか、それは次の表がしめしてくれよう。
明確な3部形式(6+8+8小節)である。 T.3、11、19にみられる8分音符の動きはbの変形とも、aのはじめの4音符の拡大ともとれる。
『バッハのクラヴィーア作品』ヘルマン・ケラー著(音楽之友社)より


調性

第1部 <1- 6> 主調 - 属調(提示2小節+経過4小節)
第2部 <7-14> 主調 - II度調 - 平行調(提示2小節+経過6小節)
第3部 <15-22> 平行調 - 下属調 - 主調(移行+提示+終結)

第1部 <1- 6>  I - V(C - G)
第2部 <7-14> V - I - II - VI(G - C - d - a)
第3部 <15-22> VI - II - I - IV - I - IV - I(a - d - C - F - C - F - C)

<>:小節番号 ローマ数字:調性 アルファベット:英語表記

ハ長調の調関係

I       主調       C: ハ長調(なし)
II      下属調の平行調    d:ニ短調(B♭)
IV    下属調           F:ヘ長調(B♭)
V     属調               G:ト長調(F♯)
VI    平行調           a:イ短調(なし)
( ):調号

用語

反復進行:同じモチーフが連続・繰り返すこと。英:シークエンス、独:ゼクエンツ。
反行形:テーマが鏡に映ったような形。
拡大形:テーマの音符の長さが2倍・3倍・4倍などに拡大された形。
縮小形:テーマの音符の長さが短く縮小された形。
転回:上声部と下声部を入れ替えること。


練習のポイント[2]

インヴェンション第1番は、対位法の思考と演奏を学ぶ過程の第1段階に相当する曲です。

対位法の思考とは、何でしょうか?
ロザリン・テューレックは、 対位法の思考として、下記の3つをあげています。

  • 2声またはそれ以上の声部を同時にとらえるスキル。
  • 各声部を移動するモチーフを観察するスキル。
  • 各声部の関係に心を配るスキル。

これら3つは、対位法の思考の基礎となるものです。難易度の高い曲を弾くには、もっと多くのスキルが必要ですが、まずは基本をしっかり身につけたいです。

対位法の演奏とは、各声部の線を和音のかたまりとしてではなく、それぞれ独立した線として弾く技術。対位法の思考、指の独立、左右の手の独立(音・リズム)を必要とします。

練習では、右手のパートを左手で、左手のパートを右手で弾くというように左右を転回して弾くことが有用です。

参考資料
[1]「バッハのクラビーア作品」ヘルマン・ケラー著 音楽之友社
[2]「バッハ演奏の手引き」ロザリン・テューレック著 角倉一郎訳より改変